「なんとなく」から入った介護の世界
この業界に入ったのが18歳からなので22年目になります。実はアパレル関係の仕事に就こうと思っていました。なんとなく洋服が好きで、そういうのもかっこいいのかなと思って。今思えばあまり就職のことを考えてなかったですね。
なので、初めて働いた施設に就職が決まった時も、高い志をもって福祉の世界に入ったというわけではないんですよ。最初は「老健※」という介護施設で働いていました。気がつけばその施設で16年も働いていましたね。
今の法人には立ち上げの時に、知り合いから誘ってもらって就職したのがきっかけです。新しいことに挑戦したいという気持ちがありましたね。
※老健……介護老人保健施設の略称。食事や排泄、入浴といった介護サービスを受けながら、自宅への在宅復帰を目指してリハビリをする施設のこと。
負けんのやけん、大丈夫やわ
私がこの仕事をはじめたときは、今の時代ほど指導体制が整ってなくて「見て盗め」の時代だったんですよ。入職して1週間ぐらいで仕事の覚えが悪いから「帰っていいよ」と言われたりして。そんな厳しい先輩たちに感化されて「なにくそ」と思って見返してやりたい気持ちで頑張ってました。
尊敬する先輩たちがいたんですよ。「負けんのやけん、大丈夫やわ」って自分たちが一番利用者の方たちのことをよく分かっているんだから、何言われても自信を持てって教えてもらいました。その先輩は、私の仕事の根底をつくってくれたひとだと思っています。今でもその先輩には勝てる気がしないんですよね。
初めて意見が通るようになったのは、25歳の頃くらいだったかな。この仕事がちょっと面白くなってきて、どうせやるなら施設の介護スタッフのなかでトップになってやろうと思うようにもなりました。

介護技術の職人を目指して
施設のトップに立って現状をよくしたいというよりも、技術的に卓越したいっていう思いがあったんですよ。介護技術も誰よりも上手くなりたい。介護技術を一生懸命頑張っていると、おのずと周りにも認めてもらえるようになってきて勉強会の講師や指導をすることも増えていきました。
介護技術って一概に言ってもいろいろあるんです。もちろん認知症の方とのコミュニケーションも大事ですが、いわゆる「3大介護」とよばれる入浴、食事、排泄も含めて、誰よりも上手くなりたいと思っていましたね。
ケアがむずかしいひとが入所した時に、自分がちゃんとした技術を持っていないと応えることができない。どんなひとが来てもちゃんと応えられるようになりたかったんですよね。
私が思う「上手い介護」ですか? なんだろうなあ、難しいですね。私が今思うことなんですけど、綺麗なんですよね。スムーズに流れていって、綺麗な所作をする人ってやっぱり介護技術も上手いですよ。それはコミュニケーションとか相手の状態をきちんと理解したうえで物事を動かしているから相手にとっても苦痛がない。介護技術が上手いひとはケアが終わった後、そのひとが嫌な顔をしていなかったり自分も身体の疲労が少なかったりしますね。
たとえば、お風呂介助ってあるじゃないですか。動き方をわかっていると無駄な動きがないので泡だらけになったり濡れたりしないんですよ。
でもね、介護技術って「センスが大事」という話ではないと思います。センスがいいからできるんだって思ってしまうと、センスがない人はできない仕事になってしまう。誰にでもできるんだけどちゃんとした介護技術を努力してしっかりと身につけることができるかどうか、だと思うんですよね。

想いがないと技術は活きない
自分でも職人気質なんだろうなと思います。それだけではどうにもならないこともあると気づく時がくるんですが、技術がなければ何もできないし、想いがなければ技術は身につかないと思っているんです。
25〜26歳の頃に転機があったと思います。認知症の勉強を始めた時なんですよ。当時は身体的なところに着目して仕事をしていたんですが、気持ちの変容というのを勉強しはじめたときに、テクニックってすごく大事だけど、気持ちをちゃんとそこに向けないとテクニックって活きていかないってことに気がついたんです。
実習生さんや新人さんにも指導をしていたんですが、指導にも想いをのせないと伝わらないことに気がついて、伝える面白さも知ることができました。経験は一番説得力があるけど、そこにちゃんと想いものせて伝えないと表面的なものだけになってしまうんですよね。
優しいから、格好いい介護へ
介護のイメージを変えたいと思っています。福祉の業界はクリエイティブ産業だと思っていますし、みんなが憧れるような職業にしていきたいですね。介護実習に行って、やっぱり介護の仕事に就くのやめようと考える学生さんも多いんですよ。せっかくなら学生さんが格好いい介護に出会えるようにしていきたいんです。
あと介護職って、スタイリッシュさがないイメージですよね。よく優しいひとが多いとも言われるんですが、一時期そう言われるのがすごく嫌だった時期がありました。介護を生業としているひとたちは、優しさだけじゃできない仕事だと考えているんです。
そういえば、22年もこの仕事をやってきてようやく「この仕事が好きだ」って言えるようになったんですよ。なんでかって? ノーリフトケア®※に出逢ってから、いろんな疑問や課題が解決できたんです。それが、この仕事に自信をもてるようになってきた理由だと思いますね。
※ノーリフトケア……介護する側・される側双方において安全で安心な、持ち上げない・抱え上げない・引きずらないケアのこと。
大分んこと、知っちょん?
〜教えて! 大分の好きな◯◯〜

「焼肉徳寿」のTKG
どこも好きなので本当に困ったのですが、近所の「徳寿」って焼肉屋が好きかな。
私は近所のおじちゃんたちとよく呑みに行きますね。内臓系が美味しくてホルモンをよく食べます。あと卵かけご飯も美味しくてよく食べますね。メニューには「TKG」って書いてありますよ。
▼大分市大字猪野
焼肉徳寿明野店
text by Hikaru Mizumoto
photo by Takamasa Anan