家に帰るための手助けをする場所
医療ケアやリハビリを必要とする要介護認定を受けている65歳以上の高齢者に向け、ここでは主に自宅に戻るためのリハビリを中心に行っています。「老健」とも呼ばれます。
食事や入浴、排泄の介助を行いながら、家で自立した暮らしをするための手助けをしています。同時に、医師や看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科衛生士、栄養士、相談員、ケアマネジャー、介護福祉士の横のつながりを生かしながら、利用者さんやご家族のニーズに対応していくというのが特徴ですね。
わたし自身は、子どもの頃におじいちゃんおばあちゃんと離れて暮らしていたので、最初はこの世界に馴染みがなかったんですよ。
小学生のとき、クラスで取り組んだ空き缶のフタを集めて車椅子を送る活動のとき、贈呈式ではじめて老人ホームに行ったんです。そのときにおじいちゃんおばあちゃんと接して楽しいなと思って。
中学ではボランティア部に入って、老人ホームのお手伝いや障がいのある方々の運動の手助けをしたりしてました。「ありがとう」って言ってもらえたことから、この道に進みたいと思うようになったのかな。
「ありがとう」と言われること
「ありがとう」を言われることがモチベーションの原点になるという話はよく聞きますけど、その本質ってなんなんでしょうね? 日常的に利用者さんと関わるなかで言われることなので、特別なことではないんです。といっても、サービスの提供とは違うんですよね。
たとえば、コーヒーを注文されて持っていくとしても、介護の世界では、その人の身体の調子や認知度を見て提供のしかたを考えます。すぐに口に入れる方ならすこし冷ましてから提供したほうがいいかな、とか。麻痺があって左手しか使えない場合はカップを左側に置いたほうがいい。カップは取っ手があるほうがいいのか、ひっくり返してもこぼれないもの、ストロー付きがいいのか……。
相手に対する気づきや洞察力が必要なんじゃないかな。
その方に合ったカタチでリハビリをして、いい変化が見えたときに言われる「ありがとう」はとっても嬉しいですね。
どんなケースにも向き合う
ここで働いて15年目になります。後輩もたくさんいますよ。
お看取りもしているので、現場に入ったばかりの後輩のなかには利用者さんの亡くなる場面にショックを隠せない子もいますね。最初は気持ちの整理をつけるのが難しいのは当たり前で、ご家族の前で涙を見せてもいいと思うんです。ただこわいからと逃げないでほしい。お看取りの後は「もっとこうすればよかった」と肌で感じるんですよね。その想いを大事にして、次につなげてほしいです。
わたしは看護師さんとエンゼルケア※をさせてもらったことがあります。「おつかれさま」と声をかけながらお化粧をさせてもらって、いい経験になりました。人生の最期に関われたありがたみを後輩にも伝えていけたらいいなと思っています。
わたしたちは、ただ悲しいだけじゃ終われないんです。この想いを糧にして、介護は次につなげていかないと。
※エンゼルケア……死後に行う処置、保清、エンゼルメイクなどのすべての死後ケアのこと。
利用者さんと過ごす時間を増やしたい
ふだんは係長として、業務の見直し・改善に力を入れています。介護の現場って、肉体労働だと思われがちです。が、ノーリフティングケア※1やICT※2を取り入れて、効率よくスマートに介護をしていく。それによってできた時間で利用者さんと関わる時間を増やしたいです。
※1 ノーリフティングケア……介護する側、される側双方において安全で安心な、持ち上げない・抱え上げない・引きずらないケアのこと。
※2 ICT……情報通信技術のこと。モニターによる見守りや、タブレットを使った情報共有システム、介護ロボットなどを指す。業務の効率化や職員の負担軽減などのメリットがあり、導入が進んでいる。
事務作業やシーツ交換などの業務に追われてしまい、ほんとうに必要な時間を見失ってしまってないかな? と感じています。介護サポーターの方にも協力いただき、担えるところは担ってもらっています。現場で働くわたしたちが精神的・肉体的に満たされていたら、その分利用者さんに還元できるでしょう? 人と人の関わりなので、腰が痛いなあと思いながら働いていると、相手にわかってしまうんですよね。
大分んこと、知っちょん?
〜教えて! 大分の好きな◯◯〜
text by Azusa Yamamoto
photo by Kazuya Matsuda